エスポ―現代美術館 カイピアイネン回顧展図録
Birger Kaipiainen|ビルガー・カイピアイネン |
緑濃い針葉樹の森の街の美術館にて
フィンランドのセラミックアーチストBirger Kaipiainen(ビルゲル・カイピアイネン1915 - 1988)。氏の生誕100年を前にして、2013年6月~2014年12月、エスポー現代美術館(EMMA)にて回顧展が開催されました。
当時はヘルシンキからエスポーへ通じる地下鉄はなく、バスを利用して緑濃い針葉樹の森の街へ出かけたことを記憶しています。GEEWEEという旧印刷工場をリノベしたスクエアで現代的な建物内に美術館はあり、フィンランド最大規模。アラビア製陶所で同僚だったRut Bryk(ルート・ブリュック1916-1999)の作品を数多く収蔵しています。
カレリア湖水地方とイタリア・ルネッサンス
カイピアイネンの耽美的で、浪漫主義的なデザイン作品の数々は、手工芸を踏まえた北欧デザインとも、インダストリアルを前提とした北欧モダンとも少し違う、独特の世界感を表現しています。それは、彼が幼児期を過ごしたカレリア湖水地方の自然体験が創作の原点となったとも、イタリアミラノへの留学によるビザンチン様式、ルネッサンス美術の吸収によって洗練されたものとも言われています。
“スミレ”というモチーフが持つ意味について
本書はその回顧の展図録となります。表紙は、どこか宝石箱を思わせるベロア調の装丁、見返しはスミレのモチーフデザイン。スミレは、カイピアイネン最愛の妻Maggi Halonen(マギー・ハロネン1918-1966)への愛情の印。二人はマリメッコ創業者Armi Ratia(アルミ・ラティア1912-1979)を介して知り合いましたが、結婚生活は8年という短いものだったといいます。以来、スミレはカイピアイネンにとって作品の重要なモチーフとなりました。