スウェーデン、プリントファブリックの世界

Tryckta tyger för alla tillfällen



本書「TRYCKTA TYGER FÖR ALLA TILLFÄLLEN(あらゆる場面で活きるプリントファブリック)」は、スウェーデンの1940年〜1960年代、テキスタイルデザイン全盛期の作品・製品について体系的にまとめられた一冊です。掲載されている美しいスケッチ画や生地サンプル写真は、主にLjungbergs(ユンバリ社)の貴重なアーカイブと各デザイナー関係者への取材をもとに編纂されました。

スウェーデンは、北欧諸国の中でもっとも早く近代工芸運動が始まった国ということで、テキスタイルデザインについては、家庭内手工芸から工業生産への転換期を経てもなお、伝統が毀損されることなく、新しい時代へ、新しい技法を介して継承発展されてゆきました。本書前段でも簡単に触れられていますが、プリントファブリック前史に登場し、伝統からモダンへと橋渡しをした代表的な女性作家について、こちらでも整理してみたいと思います。


Lilli Zickerman(リリィ・シッカーマン1858-1949)

19世紀後半、工業生産化へによって各地の農民手工芸生産者は困窮を極めました。その状況に応じて、工芸品の生産と販売を支援する手工芸運動も活発化しました。その中心的役割を担ったのが1899年に設立された「Föreningen för Svensk Hemslöjd(スウェーデン手工芸協会)」であり、その推進力となったひとりとしてテキスタイル・アーティストLilli Zickerman がいました。
Lilli Zickermanは、1910年〜1932年にかけてスウェーデン全土を歩き、各地の手工芸によるテキスタイルを調査し、伝統的テキスタイルデザインの目録を完成させました。この内容は1937年出版の「Sveriges Folkliga Textilkonst (Swedish Folk Textile Arts)」にまとめられ、またコレクションは現在「ZICKERMAN COLLECTION」としてKONSTFACK〈University of Arts, Crafts and Design〉に収蔵されています。https://youtu.be/spxCIyMwLSw



Elsa Gullberg(エルサ・グルベリ1886〜1984)

テキスタイルデザイナー Elsa Gullbergは、「スウェーデン手工芸協会」でLilli Zickermanの助手として働いていました。ヨーロッパ遊学の後、1917年「Svenska Slöjdföreningen(スウェーデン工芸協会/現Svenska Form)」にディレクターとして参画。同年ストックホルムのリリエヴァルクス・ギャラリーで開催された 「Hemutställningen (生活博覧会/労働者向けの廉価で芸術性の高い家庭用品の顕彰)」を委員のひとりとしてコーディネイトしました。
※ちなみに本博覧会で名を上げた一人に、グスタフスベリ製陶所のWilhelm Kåge(ヴィルヘルム・コーゲ1889~1960/「 Liljeblaリリーブルー」サーヴィス出展)がいます。

1927年には、Elsa Gullbergs Textil och InredningarAB(エルサ・グルベリ織物・家具社)設立。芸術家と企業家とを仲介し、さまざまな専門家との多数のコラボレーションに参加しました。また、1935年、オーストリアのテキスタイル技師 Richard Künzl(1912〜1995リチャード・クンツル)とともに、スクリーン捺染によるスウェーデン初の生地プリント工房を開設。インテリアデザイン会社とともに、 Elsa Gullbergの工房は大きな反響を呼んだといいます。



Estrid Ericson(エストリッド・エリクソン1894〜1981)

Estrid Ericsonは、 Elsa Gullbergと同じく「スウェーデン手工芸協会」家具部門で働いた後、1924年にSvenskt Tenn(※スウェーデンの錫の意味)を設立。ピューター(錫合金)による装飾品の工房として始まり、その品質から1928年スウェーデン王室御用達の登録を取得。1930年頃から家具・インテリアへ領域を広げ、1934年ナチスを忌避しスウェーデンに移住してきたオーストリアの建築家Josef Frank(ヨセフ・フランク1885〜1967)と出会いによって、現在に至る艶やかなインテリアファブリックの世界が創られました。



Anna Astrid Sampe(アストリッド・サンペ1909-2002)

ストックホルムKONSTFACKとロンドンRoyal College of Artで学んだ後、1936年、NKデパート入社。1937年のパリ、1939年 ニューヨークで開催予定の万国博覧会を見据えて、NKデパート内にテキスタイルデザイン部門(Textilkammaren)が創設されると、Astrid Sampeが主任に抜擢されました。
1940年初頭にはマスタープリンターErik Ljungberg(エーリック・ユンベリ1907〜1983)と出会い、以来両者の共同制作は、Astrid Sampe がNKでの活動を終えるまで続きました。

1930年年代の作品には「Kastanj(サスタニ/くるみ)」など有機的ものもありましたが、戦後1950年代に入るとリネンのイメージを一新した「Linnelinjen(リネンライン)」や「Lazy Line」などを発表。新しい時代の、新しい家庭の食卓を彩りました。その後は、クラスファイバーを織り込んだ難燃性生地の開発やIBMプログラマーとのPCによるデザインパターン開発協業など、次々と斬新な活動を進めました。

Astrid Sampe を語る上で欠かすことのできない出来事に、1954年NKデパートインテリア館で開催されたプリント・テキスタイル・コレクション「SIGNERAD TEXTIL(サイン入りテキスタイル)」があります。
参加メンバーは、Astrid Sampeはじめ、Alvar Aalto(アルヴァ・アアルト1898〜1976)、Viola Gråsten(ヴィオラ・グロステン1910〜1994)、Stig Lindberg(スティグ・リンドベリ1916〜1982)など時代を牽引する北欧の建築家、画家、デザイナー、ノーベル賞科学者など12名。
展示会は大きな注目を集め、それまでスカンディナビア・モダンを体現してきた建築、家具、陶芸領域に比べ脇役的存在たった「テキスタイル・デザイン」が、他領域と肩を並べるまでになりました。


Tryckta tyger för alla tillfällen

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