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3人の"アアルト"のテキスタイル図案

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Aaltojen kuviot Alvar, Aino ja Elissa Aallon Suunnittelemat tekstiilit 著書名 : アアルトの図案       アルヴァ、アイノ、エリッサ アアルトがデザインしたテキスタイル   アルヴァ・アアルトが設計した私邸、ヴィラ・タンメカン   エストニアの大学都市タルトゥの郊外に、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトが設計した数少ない私邸があります。ヴィラ・タンメカン( Villa Tammekann )と言い、エストニアの地理学者アウグスト・タンメカン教授の委託による 1932 年の建築です。   80 年以上の歳月を経て出会ったテキスタイル   本書の著者、エストニアのインテリア研究者・デザイナー Taru-Orvokki Leskinen は、トゥルク大学(私邸現所有者)の依頼によりこの私邸内のテキスタイルデザインに関する論文をとりまとめました。その際、初めて建物内に入った時の感想として、室内にアイノ・アアルトによる植物柄のテキスタイルが、カーテンとして飾られ、8 0 年以上を経ても変わらぬその美しさにとても感銘を受けたといいます。 ※氏の論文は、下記からご覧頂くことができます。 Leskinen, Taru-Orvokki 2018 : Aaltojen kuviot. Alvar, Aino ja Elissa Aallon suunnittelemat tekstiiilit.  Opinnäytetyö.  Lahden ammattikorkeakoulu.  https://urn.fi/URN:NBN:fi:amk-201902212573   アアルトのテキスタイルデザイン研究へ   以来、氏はアアルトのテキスタイルデザイン研究に没頭することとなりました。博物館の奥にアーカイブとして眠る様々なテキスタイルの試作やデザイン画を、誰もが眼にすることができる形にしたいと。この趣旨に賛同協力したのは、ユヴァスキュラのアアルト博物館、アアルト等が立ち上げた企業アルテックなど。そして、この書物が刊行され、フィンランド国内を巡回する展覧会が開催されました。   アアルトという 3 人の建築家   申し上げるまでもなくアルヴァ・アアルト( Alvar Aalto1898-1976 )は、フィンラ

近代照明の父 ポール・ヘニングセン

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Om Lys|Poul Henningsen 建築家として直面した光の問題 “近代照明の父”と呼ばれ、 PH シリーズなどの照明デザインの名作を生みだしたポール・ヘニングセン( Poul Henningsen1894-1967 )。はじめは、一般労働者のための快適な住まいづくりという理想にもえた建築家でした。その作業過程の中で、光環境の重要性、新しい照明の計画が住宅開発には欠かせないことを思い知ったのです。   当時、室内装飾でしかなかった照明器具 19 世紀終盤に発明された白熱電球は、 20 世紀に入ると実用化へ向かいましたが、一般の住宅で使われることは非常に少なく、依然キャンドルやオイルランプが主流でした。照明器具といっても、シャンデリアのような室内装飾の意味合いが強かった時代のことです。   空間づくりの視点から明かりを考える 空間づくりの視点から明かりを考える姿勢は、同時代フィンランドの建築家アルバー・アアルト( Alvar Aalto1898-1976 )の志向に通じるものですが、ポール・ヘニングセンは、空間設計ではなく、光の環境そのもの、照明器具そのものの新しい理論と設計へ向かっていきました。   イニシャルを冠した「 PH ランプ」の原点 様々なスタイルで展開されている PH ランプの原点となったのは、金属 3 枚シェードの「フォーラムランプ」、 1926 年頃の作品です。そこに至るまでには、配光とグレア ( まぶしさ ) の問題を克服するため様々な試行錯誤と試作・作品が制作されました。大きな一歩を踏み出すこととなったのは、 1925 年にパリ万博へ出品した金属 6 枚シェードの「パリランプ」によってでした。   光の理論家であり編集者であった 自身の手になる著書はないのですが、 1941 年ルイスポールセン社広報誌「 NYT ( new )」創刊にあたり編集長となり、それ以外にも、「 Politiken 」「 Social Demokraten 」等の新聞において論説委員を務め、それら各紙誌が理論構築発表の場となりました。本書は、それらの照明理論を中心に編纂された集大成で 3000 部限定で没後の 1974 年に出版されました。   PH グランド・ピアノ ポール・ヘニングセンは、建築家、照明デザイナー以外にも、時事評家、映画監督、シンガーソングライ

光の彫刻家、ティモ・サルパネヴァ

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20 世紀後半、フィンランドデザイン界で最も才能豊かなクリエイターと言われたティモ・サルパネヴァ( Timo Sarpaneva 1926-2006 )。本書は、彼がグラスアートを越え、光の彫刻家であることを物語っています。 ティモ・サルパネヴァは、 1926 年フィンランド・ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ芸術デザイン大学でグラフィックデザインを学び、戦後 1951 年、 Iittala 社に入社。デザイナーとして、現代グラスアートの世界を切り開きました。彼は、様々な作風=作品世界を極めてコンセプチュアルに仕立て上げている所があります。以下代表的なグラスアートのコンセプトに沿って整理してみます。   《オルキディア   ORCHID / ORKIDEA 》 彼が才能を発揮したのは Iittala 社に入社間もなく 1950 年代のこと。 1954 年に発表したフラワーベース 「 ORCHID / ORKIDEA (欄)」は、同年のミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞しました。 Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art 澄みきったガラスのなかに、そっと息を吹きこんだよう に気泡がふくらみ、その気泡は、陽の光を受けて、神秘 的なシエットを浮かび上がらせる。このフラワーベース は、ひとつとして同じ形のものは存在せず、それは、ガ ラス素材をありのままに生かす手吹きによってつくられ ているからです。硬質なガラス素材が、本来備えている 「柔らかさ」を引き出した所に、このシリーズの特徴 があります。   《  I- ライン  I-LINE / I-LINJAN 》 1956 年以降、サルパネヴァはアートグラスとは別に日常使いのプロダクトにも挑んでいます。「 I-LINE / I-LINJAN 」がそれで、 1957 年ミラノトリエンナーレで 2度 目のグランプリを受賞。世界的に注目を浴びました。 Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art ボウル、プレート、タンブラー、ピッチャーなど幅広いラインナップがあり、全てが薄い手吹きガラスによるブレーンなシリーズ。実用的な機能性に富みながら、ガラス素材の特性を活かしたマットなカラー、色彩のグラデーションが、アートの佇まいを感じさせます。 サルパネヴ

北欧モダンの源流を巡る書物

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北欧モダン、北欧デザインって何だろう。何故、北欧なんだろう。 デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、それぞれ の国々で生まれたモダンデザインの品々は、美を誇る芸術品ではなく、洗練された表情を持ちながらも暮らしになじみ、愛着を感じさせ、柔らかく温かみがあり、人の心を癒やす何かを備えている。 例えば、食器、椅子、ペンダントライト、織物…。それらは、時々で、傑出した天才的なデザイナーが創造した世界だったりするけれど、でもそのもっと深い所に、沃土のように 広がっている 北欧の世界。 それを感じずにはいられない。それは、一体何だろうと思う。 Hemslöjd|ヘムスロイド そんなことを考えていた折に一冊の書物に出会った。 著書名は「HEMSLÖJD (家内手工芸)」。  スウェーデンの人類文化学者アンナ・マヤ・ニーレン  ( Anna-Maja Nylén 1912-1976)によって1968年にまとめられ、1976年に出版された大著である。本書は、17世紀頃から20世紀に至るスウェーデン手工芸の変遷を、当時の生活形態や社会状況を見据えながら描きだしていた。 本 書に即して、概略を 少し考えてみると… イギリスの産業革命に端を発して、19世紀初頭、 近代 工業化のうねりはヨーロッパ諸国へ、アメリカへと広がっていった。だが、北欧では少し事情が異なっていた。例えば、農業従事層が 圧倒的であった スウェーデンでは、都市化・工業化は急速には進まず、欧米他国よりおよそ半世紀の遅れをとったという。その間も、旧来の農家を中心とした手工芸の伝統はたゆます 続くことになった。 Hemslöjd|ヘムスロイド Hemslöjd|ヘムスロイド 新しい時代への、ゆるやかな受容の時間がもたらしたもの。 やがて19世紀末には、工業化も 進み、その経過において様々な手工芸運動 も (生産者を保護するための)ひろがりをみせた。その甲斐あってか、手工芸 の伝統、様々な技法、様々な様式は、工業化への転換時期を経てもなお、うち捨てられることなく、ゆるやかに新しい時代へ、新しい技術や作家の眼を介して継承発展されていったという。 一般市民の生活に即した工芸という姿勢とともに。 北欧モダニズムの源流を巡る思いを、深くする書物。 本書は、当時スウェーデン手工芸の歴史的な経緯や様々な技法を、氏の研究成果を踏ま