光の彫刻家、ティモ・サルパネヴァ


20世紀後半、フィンランドデザイン界で最も才能豊かなクリエイターと言われたティモ・サルパネヴァ(Timo Sarpaneva 1926-2006)。本書は、彼がグラスアートを越え、光の彫刻家であることを物語っています。

ティモ・サルパネヴァは、1926年フィンランド・ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ芸術デザイン大学でグラフィックデザインを学び、戦後1951年、Iittala社に入社。デザイナーとして、現代グラスアートの世界を切り開きました。彼は、様々な作風=作品世界を極めてコンセプチュアルに仕立て上げている所があります。以下代表的なグラスアートのコンセプトに沿って整理してみます。

 


《オルキディア  ORCHID / ORKIDEA


彼が才能を発揮したのはIittala社に入社間もなく1950年代のこと。1954年に発表したフラワーベースORCHID / ORKIDEA(欄)」は、同年のミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞しました。


Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art


澄みきったガラスのなかに、そっと息を吹きこんだように気泡がふくらみ、その気泡は、陽の光を受けて、神秘的なシエットを浮かび上がらせる。このフラワーベースは、ひとつとして同じ形のものは存在せず、それは、ガラス素材をありのままに生かす手吹きによってつくられているからです。硬質なガラス素材が、本来備えている「柔らかさ」を引き出した所に、このシリーズの特徴

があります。

 


《 I-ライン I-LINE / I-LINJAN


1956年以降、サルパネヴァはアートグラスとは別に日常使いのプロダクトにも挑んでいます。「I-LINE / I-LINJAN」がそれで、1957年ミラノトリエンナーレで2度目のグランプリを受賞。世界的に注目を浴びました。


Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art


ボウル、プレート、タンブラー、ピッチャーなど幅広いラインナップがあり、全てが薄い手吹きガラスによるブレーンなシリーズ。実用的な機能性に富みながら、ガラス素材の特性を活かしたマットなカラー、色彩のグラデーションが、アートの佇まいを感じさせます。

サルパネヴァは、本シリーズ用に「i」のロゴもデザインしましたが、そのマークは、以後Iittala社のブランドマークとして展開されました。

 


《フィンランディア FINLANDIA


1960年代に入ると、エレガントで繊細なスタイルの作風は一変し、有機性を帯びた生き物のような表情をもつ「FINLANDIA」シリーズが考案されました。


Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art


溶けたガラスが触れた瞬間に燃える、柔らかいハンノキの木型。その木型を経て生み出される、ガラスとは思えぬ感触と質感。樹木と氷と雪のフィンランドの冬景色を連想させるテクスチャは、象徴的な表現といえるものでした。

 


《グラス エイジ GLASS AGE / LASIAIKA


視覚芸術におけるガラス素材の機能性を意識した彫刻作品シリーズを1980年代以降「GLASS AGE /LASIAIKA」として発表しました。


Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art


ガラス素材を彫刻することは、ガラスの塊に浸透する光を彫刻するということ。粗い表面と滑らかな表面に反射して絶えず変化するダイナミックな光のエネルギーフォースを宿す試みだったといえます。当時、Iittala社にディレクターとして参画した建築家Juhani Kivkoskiの示唆も影響したと言われています。

 


《クラリタス CLARITAS


同年代、グラスエイジの作品群とは対照的にサルパネヴァは、ストイックなアートオブジェシリーズ「CLARITAS」を発表。本作は、高度な技術を持つ名工(吹きガラス職人と研磨職人)との厳しい共同開発を経て登場しました。


Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art


光学レンズのように研ぎ澄まされた存在。全体は色付きガラスと透明ガラスの多層構造からつくられ、気泡と幾重の層で形づくられた「目」が組み込まれることで特別の印象を放っています。

 

「ガラスは“空間の材質”、光を映し出すのに最も適した素材 」。

光の彫刻家ティモ・サルパネヴァの言葉です。


Timo Sarpaneva|Taidetta lasista - Glass art


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